マザー!聖書のストーリーだと言い張る監督の強かな言い逃れ

※このレビューにはネタバレが含まれています

この映画は、聖書曰く創世記6日目からのお話だそうです。

アダムとイブが禁断の実を食べカインとアベルの最初の殺人。
もちろん父である神は作家で聖書を書いて、母なる大地で聖母マリアには息子キリストが懐妊。民衆に惨殺されそこから許しを学ぶ。

といった本当に表面だけをなぞったストーリーに、ダーレン・アロノフスキー監督の悪趣味なエッセンスが満載です。「愛」と「許し」に重きを置いているところ、またストーリー序盤で家を「楽園」にしたいというセリフですぐに聖書のメタファーだとは気づくように誘導されています。

まず結果から言うと、初めに出てくるクリスタルは「愛」の結晶そのものであり、神は人間や生き物の肉体・命よりも愛のみが価値あるものと捉えているように見える。だけど、最後のシーンに出てくるMother自身の「愛」を奪っているようでもある。

強奪すると言うよりもトコトンまで追い詰めて「差し出させる」という残酷さ。なんとも言えない後味の悪さ。

多くの方が書いているレビュー同様、見ている間は不快指数がどんどん上がっていき、訪問者を受け入れ続ける夫の理不尽さに立腹せざるを得ません。誰が見たっておかしい状況なのに、誰1人彼女を守る人はいない。

この不快な状況こそ監督が聖書に抱いている不信感であり、神への挑戦なのかと思いました。愛のみに執着し、愛を差し出させ全てを奪う。

考えても見れば宗教(この場合は旧約聖書なのでユダヤ教なのでしょうか)が世に誕生してから争いは絶えないし聖地の奪い合いで年千年も争いが絶えません。
そういった凄惨な現実から目をそらし、集団催眠の「奇跡」を信じて盲目的になることへの警鐘なのかもしれません。

とまあ、割と真面目に解釈を試みましたが、それでもなお腑に落ちないところが沢山あります。問題は監督が聖書に対してステレオタイプな無神論者としてのスタンスを取っている(かのように見える)事です。簡単になぞっただけのストーリーに理不尽な神。神とは自ら助くものを助く。あれだけ献身的な妻が追い詰められる理由が分かりません。また、神は息子の命をまるでおもちゃのような、自身のアクセサリーのような扱いで人々に見せつけます。その上簡単に渡してしまう。どうも監督自身のサディズムが関係しているだけのように見えます。

訪問者のセリフも気になりました。
「娘さんかと思いました」という夫婦の関係性を一発で語ったところ。その後に抱けないくせにと罵られて初めて起きた性交渉。あれは夫婦なのか?もしかすると娘だったのかしら、と思いました。セクシーな衣装は確かに身につけていないし、2人の落ち着いた関係はまるで親子です。ここには一体どういう意図があるのでしょうか?そもそも聖書を物語にするのであれば「処女懐妊」というのは絶対条件のはず。それなのに2人は交わりました。その始まりの根元の悪(近親相姦)こそが「原罪」なのか。(ちょっと詳しくなさすぎて分かりません)

それと訪問者の吐いたもの。トイレに詰まっていたものをポンプで流す際に心臓のような臓器が見えていました。これは一体どういう事でしょうか。禁断の果実=男女の関係であって、臓器がそこに流れていったのはメタファーとしての演出と考えるべきか、、、。

あとは演者のスペックの高さですね。みなさん演技派で大好きな人ばかりです。エドハリスも渋くて素敵でした。

話題になった点といえば、この映画が公開中止になり日本では劇場で見れなかった事。アメリカでは公開されてすぐに不評すぎて話題になったそうです。多様性を認めると言いつつ、クリスチャンの反発は恐ろしいですね。

以前聞いたのですが、都心部などでは教育の際に人間の進化論なども教育し、地球がビッグバンで誕生したと教えるのは一般的になってきたそうですが、郊外などではいまだに神が地球を創生したと教えているそうでこの反発も生半可なものでは無いようなのです。
日本では教育も画一化されていますが、アメリカは広大な土地に人種も様々なので教育の国家戦略はまだまだ遅れており、州の支持母体によっては大きく左右される問題のようですよ。

そういう背景もあってか、この酷評っぷりにはある意味納得ですが、嫌われる理由がもう一つあるんです。
それは監督自身がこの映画を突き詰めて作れていない事だと思うんです。迷いがあるから何と無くうやむやにして見たり、残酷描写だけは外したく無いけど物語は少しは知的に見せたい、、、という欲求がちらほら見えます。それ故に振り切ることが出来ず視聴者を煙に巻いてごまかそうという意図が見えてしまい、失望されているんだと思います。表現者として自分の意思を言わない事ははっきりいえば「こずる賢い」のです。

 

まとめ

見て損したなという事ではありませんが、見てよかったわけでは無いし明らかに不快でした。今後、ご覧になる方はある程度「ムカつく」のを前提にされた方が良いです。(これだけ感情的にさせるのもある意味テクニシャンですね)

では、本日も読んで頂き有難うございました!